- SUS300系
【オーステナイト系】
冷間加工だけで硬化し、熱処理を行っても硬化せずに、かわりに軟化します。
このオーステナイト組織は、熱処理の状態では磁性はありませんが、冷間加工では少しの磁性を見せます。
こうした加工後でも磁性がないものもあります。
500~800℃に加熱すると結晶粒界にクロム炭化物が析出してくるという欠点があり、粒界腐食(金属組織を構成する粒と粒の境界線から腐食していく)の原因となります。
これを防ぐために、炭素量を減らしたり、チタンやニオブなどの安定化元素を添加して、クロムの代わりにこれらの物質と炭素を結び付けてクロム炭化物の生成を抑える方法があります。
耐摩耗、耐食が必要な場合は、浸炭や窒化して用いることがあります。
Niを含有しているので、常温でもオーステナイトの組織が安定している材料で、またCrとNiの含有量が多いことから、耐食性、耐熱性に優れます。低温じん性にも優れます。
応力腐食割れ感受性が高いという欠点については、添加元素により改良されている鋼種もあります。
耐食性、加工性、溶接性など他のステンレス鋼材種で最も優れますが、焼入硬化性がない為、強さや硬さの面では他種に劣る部分や欠点もあります。
ただ総じて優れた性質を発揮するため、用途や利用領域が広いステンレスと言えます。
- SUS400系
【マルテンサイト系】
最大の特徴は、熱処理(焼入れ)をすることができ、この焼入れによってマルテンサイト組織が生じて硬化させることができ、すべての状態で磁性があります。
マルテンサイトの組織自体は、硬くて脆い性質をもちますが、焼き戻しによって強度や硬さを更にあげることができます。この系統のステンレスは組織が変態するという特色があるため、熱処理によって硬化させて利用されています。 代表的な鋼種として、13Crステンレス(13クロムステンレス)があります。こうした性質から、高強度や高硬度が要求されるものや高温にさらされるものに使われたりします。
耐食性についてはマルテンサイト系は他の系統よりも劣る傾向があり、これは炭素の含有量が抑えてあることと関係します。SUS403やブリネル硬さ500まで硬化させることができるとされるSUS420などこの系統のステンレスの際立った特徴は、「硬さ」です。ただ硬さとは、脆さとも表裏一体でもあり、溶接性は比較的悪いといえます。硬く耐摩耗性に優れることから、刃物、工具、ノズル、タービンブレード、ブレーキディスクなどに使われます。
【フェライト系】
熱処理を行ってもマルテンサイトのように硬化はしません。フェライト生成元素であるCr、Mo、Siなどが適度に調整されているため、高温下でもフェライトのまま存在します。 つまり、焼きが入りません。またすべての状態で磁性があるため、磁石につきます。
このステンレス鋼材は、特定の温度下(475℃ぜい性)で「ぜい化現象」を起こすことで知られ、引っ張り強さや硬さが向上するかわりに、耐食性が劣化していきます。ぜい化(脆化)はこの場合、延性などが低下することを意味します。
代表的な鋼種として18Cr(俗に言う18クロムステンレス)と呼ばれるSUS430があります。一般にはマルテンサイトよりクロムの含有比率が高い鋼種です。耐食性はオーステナイトよりは劣りますが、マルテンサイトよりは高いです。溶接性もそこそこあります。 また軟質で延性に富んだ材料でもあります。
フェライト系で特にクロム含有比率の高いSUS430系などは高温における耐酸化性に優れています。またオーステナイト系に比べて熱膨張係数が小さく、加熱冷却時の表面スケールの剥離も少ないとされます。
フェライト系のステンレスの中には、Mo、Ti、Nb, Al, Siなどを添加することで耐食性や耐酸化性を改善したものもあります。ニッケルを含まない鋼種のため、硫黄(S)を含むガスに対して耐高温腐食性が優れています。また、オーステナイト系の欠点でもある塩化物応力腐食割れが発生しないという利点があります。価格が安く、溶接性も悪くないので、800℃までの炉部品や化学設備にも利用されます。
- SUS600系
【析出硬化系】
熱処理によって高硬度にしたステンレスです。 元来、焼入によって硬化できないオーステナイト系ステンレス鋼材を熱処理によって強力化できるように改良した鋼種ですので、クロムニッケル系の組成を持っています。
このため、耐食性はオーステナイト系には及びませんが、クロム系よりは優れています。固溶化熱処理(S処理)によって成形加工して析出熱処理を施した鋼種で、金属組織上の特徴から3タイプあります。
代表鋼種のSUS630は、固溶化熱処理の状態でマルテンサイト組織を持つタイプです。
シャフト、タービン部品、スチールベルト、ばね材などに利用されます。